武蔵野市の都市開発

 先進諸国の都市で、コンパクトな都市づくりが試行されている。快適な居住環境の創出を目指して、暮らしに必要な施設をコンパクトに配置すれば、おのずと移動エネルギーも削減できるようになるという仕組みだ。そうした便利で環境にやさしいまちを、人間的なスケールで構成しようというのだ。武蔵野市は、その便利性に秀でた、コンパクトシティそのもの、元祖コンパクトシティといってもよいかもしれない。
 武蔵野市は東西6キロメートル、南北3キロメートルの範囲にあり、市内各所は三つの駅からすべて徒歩圏内に位置することになっている。つまりは、駅からどんなに遠いところでも、30分歩けばどこかの駅に着くというようなコンパクトな都市なのだ。
 徒歩は、車やバスではなかなか感じ取れない、まちのさまざまな表情や四季の変化が見て取れ、また地域の課題に触れることもできる。歩くことは、その人自身の健康維持につながるばかりか、人が歩くことでまちに人の目が増えれば、防犯の効果も高まる。歩くことは、個人の健康だけでなく、まちの健康を管理することにもつながるのである。そこで課題となるのが、人がまちを歩くための空間を作り上げていくことである。限られた空間の中で、歩行者が安全にそして快適に歩行可能な、優しい空間を多く創出していかなければならないのだ。歩行者空間の整備は、幹線道路の歩道や緑道のネットワークを骨格としてとらえたうえで、住宅地内の道も含めた歩行者空間ネットワークを、市全体に拡げていかなければならないのだ。
 武蔵野市内には、寺社仏閣や農民文化などの歴史的資源をはじめ、公園緑地、街路樹などの自然的資源、吉祥寺を中心とした商業的資源、アニメや音楽などの文化的資源、さらには戦争の痕跡を伝える資源などが点在している。それらをつなぐ歩行者ルートを設定して、市民が楽しめる環境を考えていくことが、都市観光事業を進めていくことにもつながるのである。自分たちのまちをよく知り、自慢できるひとが増えるほど、さらに多くの街来者を呼び込むことにつながるのである。コンパクトさを最大限に活かしたまちづくりこそが、武蔵野らしいまちづくりと言える。そうしたヒューマンスケールで人間性豊かなまちづくりを推進し、歩いて楽しいまちを実現させることにつながるのだ。
 武蔵野市は地形がほぼフラットなため、自転車に乗りやすい地域でもある。しかしその反面、通勤や通学などで駅に集中する自転車で、課題も発生する。それは放置自転車と乗る人のマナーである。駅に出るには自転車が便利で利用しやすいことから、自転車の利用を規制するのではなく、健康にも環境にも優しい自転車を、安全に快適に利用できるような方策を組み立てることが必要なのだ。それには、以下の3点が対策としてあげられる。
 まずは、駐輪場の確保である。用地が確保できにくいのなら、鉄道事業者、地元商業者にも協力を得て、地下利用も視野に入れながら積極的に駐輪場を確保しなければならない。次に、安全運転の促進が必要である。軽車両である自転車の正しい乗り方やルールを知らない人は多く、自転車が原因の事故も発生している。安全運転とマナーの向上を徹底するために、従来の小学生向けの自転車教室だけでなく、一般人対象の講習会を開催し参加者を増やしていく必要がある。最後に、自転車走行環境の整備である。幹線道路での整備促進を図りながら、住宅地内の道路における自転車専用レーンなどの設置を進め、新たな自転車ネットワークの形成を図っていく必要があるのだ。
 武蔵野市では、これまで景観形成に関する具体的な方針はもっていなかった。それぞれの開発準備の際に景観を整えてきた経緯はあっても、市全体の景観形成の方向性は明らかではなかった。武蔵野市全体としてめざす景観の方向性を明らかにして、それぞれの街並み景観の質を高め、そして街並みを連続させていくことによって、全体として武蔵野市らしい景観形成を図っていく必要があるのだ。
 成熟した既成市街地における景観形成は、新たな景観を創出するというより、今ある景観資源の良いところを引き出し、それを阻害する景観要素を改善していくことにある。まちづくりと合わせて、足し算と引き算を繰り返していくことになる。足し算とは例えば庭木や生垣を増やす、建築デザインの方針に沿って建築するなどの誘導型の手法といえる。一方、引き算とは、電線類の地中化を促進する、看板・広告物類を整理する、けばけばしい色彩を規制するなどの排除・整理型の手法といえる。同一方向に市全体として目指す景観を決めて、そこに向けてこのような手法で一貫した景観形成が必要といえる。
武蔵野市は非常に豊かな財政力を誇っている。市民の担税力が非常に高いからだ。この恵まれた予算でしっかりと計画的な都市開発を進めていく必要がある。